学生と街の人びとの関わりが
新しい価値を生む、好循環の場。

学生シェアハウス、食堂、ランドリーを併設し、街なかのサードプレイスとして2023年にグランドオープンした富山市荒町の「fil」。シェアハウスの入居募集開始から3年ほど経ち、入居した学生たちやその周辺に、どのような変化が生まれているのか。fil運営スタッフの株式会社富山市民プラザ 永井さんと、入居学生のお二人にお話を伺いました。 ※記事の内容は、インタビューを実施した2025年10月当時のものです。

お話を伺った方々

  • 永井 慎さん

    株式会社富山市民プラザ fil運営担当

    神奈川県横須賀市出身、富山大学経済学部卒業。2003年に株式会社富山市民プラザに入社し、西町総曲輪再開発ビルの管理組合立ち上げなどに関わる。市民プラザのイベント企画を約7年担当した後、まちづくり事業部に異勤。地域の賑わいづくりに関わり、2022年よりfil運営担当となる。

  • 田中 秀嘉さん

    富山大学 経済学部 2年

    栃木県出身、2024年に富山大学経済学部入学、fil入居。大学では書道部に所属。filでは「fil通信」の取材・文字起こしや、fil周年イベントの企画などを担当している。

  • 中島 白音さん

    富山大学 経済学部 3年

    東京都出身、2023年に富山大学経済学部入学、fil入居。大学では弓道部に所属。filでは「まちなか学生EXPO」の企画とディレクション、本を通して人と人を繋げる「まちライブラリー」などを担当している。

プロジェクト立ち上げの背景

—まず、filプロジェクトが始まった経緯について、あらためて永井さんからお聞かせください。

永井さん
富山大学 都市デザイン学部 都市・交通デザイン学科の久保田教授が、富山大学の学生が置かれている環境に課題を感じ、富山市民プラザに相談されたことがきっかけです。 まちなかから2.5km離れた富山大学 五福キャンパス周辺には、約5,000人の県外から来た学生が住んでいますが、その多くの学生は学校とアパートの往復、休みも郊外のショッピングセンターに行くぐらいと、単調な生活を送っていました。また、在学中は富山やまちなかとの関わりが薄く、卒業後は特に富山への愛着もなく、富山を離れていってしまうという状態。一方で、まちなかには若者が少なく、まちの活力の低下や、空きビル空き地などが増えつつあり、都市のスポンジ化が進行しているという課題がありました。 そうした状況から、まちなかの空きビルをリノベーションすることで、学生がまちなかと関わりながら暮らす場や、多様な方が訪れて新たな交流・活動が起こる場作りをしようということで、filプロジェクトが始まりました。
インタビュー場面

—filのウェブサイト制作の目的や目標として考えていたのは何ですか?

永井さん
学生シェアハウス、ランドリー、食堂、お庭など、filのそれぞれの機能やターゲットに応じた情報発信と、信頼性の向上ということを考えていました。 学生シェアハウスについては、ターゲットが県外の学生になります。ほとんどが大学の生協などで情報をキャッチするとしても、詳細情報を調べる際にちゃんとしたサイトがあることで、信頼性が高まると思います。情報発信の方法としてSNSもありますが、タイムリーな情報などを提供できる一方で、情報が流れていってしまう面もあります。 「ちゃんと」というのは、情報の正確さもですが、全体のデザインや見やすさ、キャッチコピー、文章なども、ビジョンやコンセプトに沿った統一感が必要だと思います。特にfilに関しては、学生シェアハウスと、一般の方も使えるランドリー、食堂、お庭という機能が異なる施設の集合体ですが、一つのプロジェクトであるということも意識していました。
fil Laundryのサイン
filの学生シェアハウスと食堂の建物に隣接する、お庭とランドリー。 ランドリーの巨大なTシャツのサインが目を引く

ウェブサイト制作の過程

—ロゴマークなどの全体のブランディングや、建物のリノベーションと並行してのウェブサイト制作でしたが、どのようにコミュニケーションをとって進行されましたか?

永井さん
株式会社EVERTの蛯谷耕太郎さんに入っていただき、リノベーション、サイン関係、ブランディング、ウェブサイト制作など、全体のディレクションをしていただいてました。あとは、それぞれのセクションで、直接お会いしてのミーティングを中心に進めることが多かったと思います。

—スムーズなプロジェクト進行のために何を意識されましたか? また、苦労したことはありますか?

永井さん
それぞれのセクションで、一貫したコンセプトを共有することを意識しました。 苦労した点は、私自身ではないですが……セクションや人によって優先度や大切にする部分が異なったり、法律的な制約や会社の採算を考えるとできないことが多い中で、ハード・ソフト両面の構築や準備を同時並行で進めていくのは、かなり大変だったと思います。
fil Kitchenのサイン

—filのロゴマーク、サイン、内装、ウェブサイトのデザインを初めて見た時の印象はいかがでしたか? 学生のお二人にもお聞きしたいです。

永井さん
洗練されている、都会的、かっこいいと率直に思いました。 ロゴマークや内装、サインにもそれぞれに意味や意図を持って作られているので、プロモーションするときにも関心を持ってもらいやすく、大変ありがたいです。
田中さん
シェアハウスは、他人と生活を共にするという特性上、最初の印象が大切だと思っています。その点、filは親しみやすさを感じるデザインで、好印象でした。また、ごちゃごちゃしすぎず、シンプルだけどおしゃれなウェブサイトの雰囲気が、全体のコンセプトに沿っていると感じました。
中島さん
おしゃれで見やすいサイトだと思いました。とてもわくわくしましたし、「信頼できる場所だな」という安心感がありました。
インタビュー風景

ウェブサイト公開後の成果

—内見申込数や入居数など、定量的な成果として感じることはありますか?

永井さん
入居者数については、3年ほどかけて8割入居を目指すという当初の予定でしたが、2年目でいったんほぼ満室になって、お断りをしてしまった方もいます。内見についても、「富山 シェアハウス」と検索してfilのホームページにたどり着いた方から申込をいただくことがあります。

—入居学生や保護者の反応など、定性的な成果として感じることはありますか?

永井さん
入居学生からは、「いろんな社会経験や大人と会う機会がある」「入居学生同士で、友達以上家族未満の関係性を築ける」「一歩踏み出す勇気をもらえる」「新しい価値観が芽生える」など、うれしい言葉をもらうことが多いです。filからは距離がある、富山大学の杉谷キャンパスや高岡キャンパスに通う学生も、何名か入居してくれています。 保護者の方や視察にいらっしゃる大人の方からは、「自分が住みたい」と良く言われます 笑。
fil ウェブサイトのトップページ

—ウェブサイトで、「これがあってよかった」と感じるコンテンツはありますか?

永井さん
冒頭にある、コピーライターのタダカツさんによる「つながって、自由になろう。つぎの糸口が、この街にある。」のキャッチコピーや、「みんながつながる街なかのサードプレイス『フィル』」という言葉が、押しつけがましくなく、filのビジョンをすごくよく表しているなと感じます。すっと入ってきます。 あとは、普通のアパートではないので、お部屋だけでなくフロアや施設全体の図面、写真はあってよかったと思います。

入居学生の声

fil入居学生の田中さんと中島さんのインタビュー風景

—filの学生シェアハウスの入居条件として、「まちなかの活動や賑わい作りに参加すること」があります。そんな中で、田中さんと中島さんが入居を検討した理由を教えてください。

田中さん
シェアハウスという形式に魅力を感じたのが、一番の理由です。一人暮らしだと、引きこもってばかりの大学生活になってしまいそうで、それはもったいないなと思って……。僕は人と関わるのが好きなので、学外の活動も積極的にしたいと思っていました。
中島さん
もともと一人でいるのが嫌いで、急に富山への進学が決まったこともあり、一人暮らしに不安を感じていました。filは、家具付きで入居できたのと、実際に内見して入居する部屋を選べたので、すぐに住むイメージを固められました。ウェブサイトも実際の内装もおしゃれで清潔感があり、まちなかで遊びにも行きやすいので、普通のアパートなどの物件に住むよりいいなと思いました。 私も、せっかく大学に入ったのに、何もせずに終わってしまうことが嫌で……。filなら、まちなかの活動に参加できる機会が多いので、自ら動くハードルが減るかなと思いました。もともと、地方創生やまちづくりに興味があったことも関係していると思います。
fil ウェブサイトの学生シェアハウスのページ

—何でfilを知りましたか? また、filに関する情報収集では、主に何を参考にしましたか?

田中さん
最初は、大学受験の時に、富山大学の前で配られていたチラシで知りました。 中学一年生の時から自分のノートパソコンを持っていたので、情報収集ではパソコンを使うこともありました。シェアハウスの内装などの雰囲気や、filの活動がどんなものかも気になっていたので、ウェブサイトとSNSを主に見ていました。
中島さん
私も受験の時にチラシをもらって、それを部屋探しの時にあらためて見て、「行ってみよう」と思った記憶があります。 情報収集ではウェブサイトを参考にしましたが、私は主にスマホから見ていましたね。その時はパソコンを持っていなかったので、親がパソコンで調べてくれたものを一緒に見るくらいでした。
fil入居学生の田中さんのインタビュー風景

—filに入居する決め手になったエピソードがあれば教えてください。

田中さん
僕は受験の時にfilを知った時から「いいな」と思っていたんですが、僕の父も、全然別のところからfilを見つけていたみたいで。実際に富山へ進学すると決まった時に、僕が「ここに行きたい」、父が「ここに行かせたい」と言ったのがたまたまfilで、意見が一致したんです。母からの反対もなかったので、そこからはもう、ほぼほぼ決まりかなくらいの気持ちでZoom内見に臨みました。
中島さん
私は現地で内見したんですが、その時にお会いした永井さんが、いい意味で想像の2倍はゆるい雰囲気で 笑。周りの街も案内いただいて、よりわくわくしました。家賃は少し高いですが、電気・ガス・水道代も入っているし、定期代も半額になるし、完璧だと思いました。
fil入居学生の中島さんのインタビュー風景

—filに入居する前と後で、何か印象や意識などに変化はありましたか?

田中さん
入居する前は、すでに入居している人と仲良くなれるかなど、人間関係での不安がありました。でも、入居してみたら、みんなフレンドリーで。共通の趣味で集まることも多くて、地理が好きな人同士で本州最南端に行ったり、ダーツが好きな人同士でダーツ部を作ったりしています。
中島さん
私も、入居者とこんなにも仲良くなれるとは思っていませんでした。友達よりもっと深くて、家族に近い感じ。みんなの実家や地元をめぐるツアーを開催するくらい 笑。学部も出身地もばらばらで、私とは違う価値観に触れられることも面白いです。 あとは、filの活動で市役所や商店街組合の方とお話をする中で、まちづくりの裏側にある大変さもわかって、私も自分にできることをがんばろうと思えました。

今後の課題・展望

—学生の声を聞いたりなど、ウェブサイト公開やfilの運営を経て、何か気づいたことはありますか?

永井さん
ただ「住む」のではなくて、どんな人と、どういった時間をどういった場所でどんなふうに「暮らす」のか、ということがとても大切だと感じました。そういった観点で、ただ学校に近いとか部屋がきれいというだけではない、いい「暮らし」ができる条件を整えられたらいいなと思います。 filの入居者は、本当にみんな素敵な学生ばかりです。前向きなfilの入居者と関わっていると、自分もエネルギーをもらえます。またあらためて、そういった学生が集まる場所にするためにも、ウェブサイトも含めたプロモーションが重要だと思います。
fil永井さんのインタビュー風景

—最後に、今後のfilの課題や展望について、皆さんからお聞かせください。

永井さん
入居学生が、もっと主体的に活動できる雰囲気や仕組みづくりをしていきたいですね。僕も、まちなかEXPOや周年イベントといった枠組みを提供したり、学生と話しながらいっしょに企画を考えたりもしますが、学生の方から自主的に「こんな企画をしたい」といった提案がどんどん出てきてくれるとうれしいです。 あとは、卒業生も含めて、filのコミュニティの輪をもっと広げていきたいです。そしてゆくゆくは、fil 2号館も目指していきたいと思います。
田中さん
僕は、filの活動をもっと増やしたいです。企画に関わったイベントで子どもが楽しんでくれたりすると、それだけでやってよかったと思いますし、活動のモチベーションにもなっています。今は、活動的なメンバーが他のみんなを引っ張っているという感じなので、積極的に参加してくれる人がもっと増えるとうれしいです。 あとは、filの卒業生との関わりも増やしたいです。
中島さん
大学を卒業したら、仲良くなった子たちとあまり会うことがなくなるのかなと考えると、少しさみしいです。フロアを超えた交流ももっとあったらいいなと思いますし、filの入居者以外の学生も巻き込んでいきたいです。 filの入居者はみんな「何かをやりたい」「大学生活の中で、これはがんばったと言える何かがほしい」という気持ちはありますが、その「何か」がまだ見つかっていない人も多いです。でも、とにかく楽しそうな企画やイベントなら「とりあえずやってみよう」という気になってくれると思うので、その中で、各々がやりたいことを見つけてくれたら何よりですね。
fil永井さん、田中さん、中島さんとfluence谷崎の集合写真

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